井戸
茶碗は茶道具の中でもとりわけ重要なポイントとなります。
亭主が心をこめて点てたお茶を入れる器であり、それが運ばれて客の手に渡り、その感触を確かめながらお茶が飲み干されます。
沢山の道具が使われる茶の湯では主客共に手にするのは茶碗の他にはないのです。
掛け軸が茶会のテーマだとすれば、茶碗はそのドラマの中の主役に当たると言っても過言ではありません。
ですから1回ではいろいろな器を網羅することが不可能なので、今回は高麗茶碗だけを取り上げてみました。
これは朝鮮から渡来したもので、侘び茶が起こり始めた時期に合致します。
それまでは中国から運ばれたいわゆる唐物が主流で、格式を第一とする茶道がもてはやされていたのですが、利休をはじめ、安土桃山時代の茶人たちはそれに飽き足りず、新しい茶の湯を模索し始めていたのです。
その美学から拾われたのが朝鮮の雑器、いわゆる高麗物だったのです。
中でも井戸茶碗は最も珍重された器です。
名前の由来は特定できませんが、地名説、所持していた人の名前という説、井戸のように底が深いところからきているという説などさまざまです。
高台(畳に触れる立ち上がりの部分)が竹の節のように見えること、高台内が兜巾(山伏の被り物)状に突起していること、総釉で枇杷色の発色が認められ貫入が走り高台近辺にカイラギ(梅花皮)が現れていること、重ねて焼いたためにできる目跡があること、全体の形は大きく堂々として風格さえ感じられる等、その特徴は枚挙に暇がないほどです。
写真は萩焼きの井戸写しですが、名品に「喜左衛門」「美濃」「有楽」「筒井筒」などがそれぞれの美術館に所蔵されています。
なお以下の写真は現在の韓国で造られた写しで今高麗と呼ばれているものです。
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